2024年04月13日

美術の授業とICT

新年度が始まりました。
一年というのは本当にあっという間です。
今年はこんなことやてみよう!という願望を抱くのですが、なかなか日々の業務に追われて達成できない・・・ということもあります。

VUCAの時代を生き抜く子どもたちにどのような学びが必要なのか。今学校に課せられた課題はたくさんあります。
先日、こんな衝撃的なアンケート結果が公表されました。

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Z世代が選ぶ「将来役に立たない教科TOP10」です。
いかがでしょうか・・・・。ちなみに、このアンケート結果をすぐに本校の生徒に伝えたのですが、「えー!」「嘘だー!」「必要でしょ!」と言ってくれました。忖度したのか、本当にそう思ってくれているのか、、、まあ後者であって欲しいですが。

しかし、このような結果が出てしまっている原因は必ずあります。単に、うまく描かせる、うまく作らせる、ということを目標にしている授業ではおそらくこのような結果になってしまうでしょう。どうして美術を学ぶのか、を共に考えながら授業をしたり、社会と密接に関わっている点にも触れながら授業を展開ししたりする必要があると思うのです。

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現在の教育に関わるキーワードを挙げてみました。

ちょっと視点を変えて・・・。

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18歳の意識調査というものがあり、先日最新版が公表されました。
6カ国の中でもダントツ最下位位の日本。
自分を大人だと思っていない日本人。自分の行動で、国や社会を変えられると思わない日本人。まあ、要因は複雑化しているのはわかりますが、
教育にもかなりの原因はあると思っています。
こうした意識の変化に美術教育も微力ながら、大きく寄与できると信じています。

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いい加減、教育観の変革を教員がしていかなければならない時期になっています。
face to faceのこれまでの学びからside by sideの学びへ。

教員が全体に対して一斉に指導内容を話し、同じペース・同じ教材・指示された同じタイミングで話しあいながら子供達が学ぶという当たり前の学校風景でした。GIGAスクールで一人一台タブレットを得た今、こうした「共時性」の学校社会から子どもたちを解放し、もっと自分に合ったペース・環境で学び、自然なタイミングで協働しながら学ぶ授業を作っていけるのではないか・・・と思います。(文科省の岩岡さん:前鎌倉市の教育長のお話)

美術は個別最適な学びをずっとやってきているはずです。また協働的な学びに関してもかなり意識的に行われていると感じています。
GIGAスクール構想によって一人1台タブレットが支給され、学びのあり方も大きく変わってきているのですが、ちょっと苦手だなと思う先生はタブレットの導入を控えている傾向にあります。

そこで、一冊の本をご紹介します。(結局宣伝かよ・・・)

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ICTを使って学びが豊かになる実践を集めました。表現と鑑賞の各領域における実践とともに、総合や教科を横断した実践も収録。各実践において、具体的なアプリや全体計画、授業展開、評価とともに、作品の写真も多数掲載しています。ICTの効果的な活用方法も必見。

全国の先生方の実践を紹介しているのですが、かなり前に取り組んだものです。ちょっと古くなってきているかも。
それくらい学校現場の変化も激しくなってきています。

ICTに苦手意識を感じている先生方、ぜひお読みいただいて一つでも実践してみてください。
そうすると「なんだ、こんな感じね!」とスイスイと自分の授業に落とし込めると思います。また、こんなこともできるかも!こんなどはこうしてみよう!
というクリエイティブな授業改善に繋がってくると思います。

教師が変われば子供も変わる。
教師が楽しみながらいろんなことに挑戦している姿を見せるのも立派な教育だと思います。
子供達とも一緒になって、学校を面白く変えていく、そうした風土を作っていくと「18歳意識調査」の結果も少しずつ変わってくるのではないでしょうか。


ということで結局宣伝になってしまいましたが、新年度も頑張っていきましょう!






posted by 田中真二朗 at 09:26| 秋田 | Comment(0) | TrackBack(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年03月06日

生成AIと図工・美術の授業を考える

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GIGAスクール構想により一人一台タブレットが導入されて3年、「学校現場では使わない日がないほど、学校生活の必需品となっています。」と自信をもって言いたいのですが、実際はそうではなく、学校間でICT活用の格差があるのが実情なのです。こうした学校間格差をなくそうと、文部科学省が全国の200校を対象に「リーディングDXスクール事業」として指定校を募り研究をしているところです。「リーディングDXスクール事業」とは、GIGA端末の標準仕様に含まれている汎用的なソフトウェアとクラウド環境を十全に活用し、児童生徒の情報活用能力の育成を図りつつ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実や校務DXを行い、全国に好事例を展開するための事業のことです。

このリーディングDXスクール事業の指定校として研究を進めている中で、強く感じたのは、これまでの授業観からの変革です。「みんなと同じことを同じように」を過度に求めていた学校現場の考え方が大きく揺らぐようなものでした。これまで行ってきた板書や板書をノートに書き写させること、プリントを配って穴埋めをさせる、みんなで集まってミニホワイトボードに考えを書かせる、まる付けするために教卓に長い行列・・・などなど。こうした何気ない活動は、効率よく全員に同じことを同じレベルにもっていくためのスキルでもあったと思います。その一つ一つを「何のために行うのか」という疑問をもって検証することで新たな授業観へと変わっていけるのではないかと思うのです。

また、ChatGPTなど生成AIの出現により今後学校現場がどうなっていくのか、不安を抱えている先生も多いと思います。美術の授業でもcanvaやAdobe Expressなどテンプレート系のソフトを使うようになってきました。主にデザインの授業での活用やデジタルのポートフォリオ作成、レポート等での活用が主だと思います。生成AIは、プロンプト(コンピュータへの命令)を打ち込むと瞬時に画像を生成したり、文章を作成したり、企画等を提示してくれます。非常に便利なものですが、その利用に関して文部科学省から「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」1が示されました。
この生成AIの活用について、非常に面白い授業をしている先生がおりますので紹介させてもらいます。東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹教諭2が小学校4年生に行った授業です。


「生成AI時代、人間の価値はどこにあるのか。人間がすべきことは、目指すべきことは何か。それを考えるのは、これから生成AIと共に人生を歩む子どもたちであるべきであろうと考えて行った授業実践」で、プロの画家と生成AIに同じプロンプトで絵を描かせたらどうなるか、それを見て子どもたちはどう思うのか、そこから我々が考えるべきことは何かというものです。美術教育に携わっているものからすると非常に興味深いものです。

授業の構成としては2回に分け、はじめに長田さん3の作品を鑑賞することから始めます。画家が描いた絵を鑑賞して、語り合う、そのご本人が登場し語り合うといったものです。長田さんは「絵を描くときに思っていたこと」などを語ると、子どもたちは衝撃を受けていたようです。ここまでは普通の鑑賞の授業ですが、ここから「長田さんとAIに同じプロンプトで絵を描いてもらおう」と鈴木先生が提案します。子どもたちは「そんなこと頼んでいいの?」という反応があったようです。どのようなプロントにするか子どもたちで話し合い、投票の結果、以下のように決まったそうです。


シマエナガという鳥にしてください、絵具を使ったようにしてください。いい感じの色でお願いします。幻想的にお願いしいます。背景をぼやかして、シマエナガだけはっきり書いてください。背景は森の中にしてください。動物はシマエナガが五匹までお願いします。(飛んでいる姿)油絵でお願いします。白黒ではなくて、カラーでお願いします。

子どもたちの感想です。
「人間に例えて動物の絵を描いていてびっくりした。長田さんの絵にはたくさんのいろいろな感情が詰まっていることがわかった。」
そして、2ヶ月後、長田さんが描いた作品とA Iの作品を見比べる授業が行われました。長田さんが描いた作品がこちらです。布をかけていたものを外したとき歓声が上がったようです。

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Divergence (Emi Osada)


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最初のプロンプトでChatGPTが出力した画像



以下、質問タイムのやり取りです。

子ども:「他の絵にも自分の感情が入っているって言ってたじゃないですか。このシマエナガにも(長田さんの感情が)入っているんですか?」
長田さん:「上の3羽は同じ枝の方を向いているけれど、下の1羽は地面の方を向いているでしょう? 人間も、周りの人が同じ方向を向いていると『それが正しいのかな』と思いがちなのだけれど、自分の感覚を信じて物事を見てみると自分だけの正解を見つけられたり新しい出会いがあったりする。そういうことがあるといいんじゃないかな、という想いを込めて書きました。」
そして、鈴木先生が「じゃあ、そろそろ生成AIにも絵を描かせよう」となり、その場で先に示したプロンプトを打ち込むとすぐさま左のような作品が出てきました。長田さんの絵が現れた時とは違い、ダメ出しばかりだったようです。納得がいかず、プロンプトを少し変えてみながら何度か出力し直したようでした。
鈴木先生:「同じプロンプトで人間とAIに絵を描いてもらったわけだけれど、絵を描くことに関しての人間とAIの違いってなんだろう?」
子どもたちの意見をまとめたものがこちらです。

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鈴木先生が子ども意見をその場でまとめて作ったスライド

授業の終わりに取ったふり返り「これから先、人間ががんばるべきことは何でしょうか。(「絵を描く」以外で)という問いを投げかけると以下のような振り返りが出てきたようです。
「AIは感情がないので感情をいっぱい持つ」
「AIは今はまだ完璧じゃないからいいけれど「自分で考える力」や「感情」を持ってしまったら、人間に制御できなくなってしまうから、そのあたりは人間が頑張って、AIを制御できるようにならないといけないなと思いました。」
「答えが分からないことはずっと人間が、探していったり、考えてみたり、行動にしてみたりして人間が答えにたどりつかなくても、考え続けることも大切だと思うから、こういう答えがないものは人間がやった方がいいと思います。」
鈴木先生が最後にこのようにまとめています。「生成AIが登場した今、子どもたちにさせるべき経験は、例えばこういったやり方で生成AIと人間の違いについて深く考えることではないでしょうか。サクッと「生成AIというのはこういう仕組みでね」と説明して、いじらせれば自然とわかっていくだろうと考えるのは、さすがに乱暴ではないか、というのが私の立場。子どもたちに直接、生成AIを触らせる日は近いと感じていますが、その前にやるべきことはまだまだあるのです。」

いかがでしょうか?非常に刺激的な実践だと思います。詳しくは、鈴木先生のnoteをご覧ください。
生成AIは小中学生が持つスマホでも自由に使える状況です。この実践を拝見して、一番に思ったのが、生成AIで出力したもので満足するような授業の課題を与えてはいけないということです。これまでに増して、人間にしかできないことが焦点化されてきます。美術の授業においても、実際にその人が作る意味とか、その人にしか描けないこととか、表現することの価値について話し合っていく必要があるのではないかと思います。コンテンツベースからコンピテンシーベースへと変わらなければいけない美術の授業。「題材」の考え方、授業の構成、学び方など、これからの時代を生きていく子どもたちのために何ができるかを真剣に考え、多くの先生方と意見を交わしていきたいと強く思います。


1 初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン
https://www.mext.go.jp/content/20230710-mxt_shuukyo02-000030823_003.pdf

2 この授業の詳細は、こちらの鈴木氏のnoteに詳しく記載されています。 https://note.com/ict_inclusive/
(今回はご本人の許可をいただきここで紹介させてもらっています。)

3 長田絵美氏のプロフィールや作品は、こちらからご覧ください。
https://www.emiosadastudio.com



posted by 田中真二朗 at 14:51| 秋田 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月08日

あけましておめでとうございます

新年早々、能登半島地震が起き被災された皆様、心よりお見舞い申し上げます。
家族みんな集まってゆっくりしているところを襲った災害。本当になんと言葉をかけて良いか分かりません。
1日も早い復興をお祈りいたします。そして、自分にできることをしていきたいと思います。

今年の仕事初めは秋田県児童生徒美術展の搬入・展示・審査でした。
秋田市文化創造館にて行われました。

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県内の図工美術教員が一堂に会する機会は年に2回ほど。こうした機会に情報交換したり、子どもの作品を目の前にしながら授業の話や教材研究の話をしたりする貴重な時間なのです。審査が始まる前に研修として、東良先生が作成された画像を使わせてもらい話をさせてもらいました。

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この美術展は我々美術教員の日々の指導の発信でもある、ということ。

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また、しくじり先生と題して、昔の自分は見栄えのする作品を見つけて「次はこういう作品を作らせよう…」と担当している先生に「どのように作らせるか」などの質問をしていたことを告白し、そういうことではない!と若手の先生方にメッセージを送りました(届いていればいいけど)

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審査の前にこうした話ができてよかったです。心なしか、以前の審査よりも話し合いが多くされていたように思います…。

それでは、今年一年よろしくお願いします。
皆様にとって素敵な一年になりますように。



posted by 田中真二朗 at 11:02| 秋田 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月20日

新任の先生方へ 

 ブログの更新ほとんどしておらず・・・でも検索数をみると結構な方がこのブログを見てくださっております。
元々は、授業に関することを発信していこうと思い始めたものです。しかし、時代も変わり、新任の先生方が多くなってきた昨今、
もっと若い先生方へのサポートを充実しなては・・・と思うようになりました。(コロナもあり、美術教師同士の交流がなくなったきたこともある)
それぞれの地区の研究団体も活動が縮小され、地区によっては機能しない状況も・・・・。持続可能な研究会運営というものも考えていく必要があるな・・・と先日参加した東北造形教育研究大会の理事会で強く思いました。

ただでさえ、学校に一人の美術教師。

私だって、このままでいのか?と自問自答しながらの日々です。情報共有したり、周りはどんなことをやっているのか、どんなことを考えて授業をしているのか、気になりますよね。
そこで始めたのがyoutubeです。田中個人の番組ではなく、光村図書東北支社さんのお力を借りて作っているものです。

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コロナが5類になってから、様々な地域にお邪魔して話をする機会をいただきました。そこで痛感したのは、美術教師の減少率と高齢化、孤立、題材の固定化
などです。このyoutubeが少しでも若手の先生方の手助けになれば幸いです。
上の番組は、教科書を使ってみるという設定のものです。美術教師ってなぜか題材は自分で作るもの!と思われがちなんですが、ぜひ教科書を使ってもらいたい!
美術の先生がいない地域もたくさんあり、他教科の先生が美術を担当することもあります。そな時こそ、教科書を活用してほしい。
もし田中だったらという設定で考えたものです。この通りやれ!というものでもありません。

題材の考え方なども話していますので、一度覗いてほしいと思います。

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他にも色々ポイントを絞ってお話ししております。
大体10分から15分程度の動画ですので、空き時間などにでもいかがでしょうか。


今、新たな研究会を立ち上げようかと画策しています。テーマは若手支援です。
人とのつながりです。持続可能な研究活動ができるよう、美術教師がそれぞれの学校で輝けるよう、いろんな思いを持って立ち上げを考えております。
また告知します!



posted by 田中真二朗 at 10:42| 秋田 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月11日

2022 造形実験について 【後編】

前編では一人の生徒の試行錯誤の様子をお見せしました。
後編もタイプの違う生徒の思考の様子です。

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1時間目は全員が平面で表す活動となります。
ここでは、「折り紙をぐちゃぐちゃにしてはったところは緊張したときを表していて、折り紙を角を少し丸くして正常のときを表した。
真ん中の線は左側が正常のときの心の移り替わりを表し、右側が緊張したときを表した。心がチクチクしているような感じを表したいと思った。」と振り返っています。
発見したこととして、「緊張しているときは明るい色より暗い色、そしてチクチクしているような感じがした。」ようです。
個人の活動にはなるのですが、4人グループの座席ですので、周りの生徒がどのようなことをしているのか見えます。また、材料を取りに行く際に、いろんな生徒の実験状況を見ることもできます。興味があれば話かけ、自分も挑戦してみようという生徒も結構います。

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2時間目は立体に表してみようという時間です。
写真で見ると平面的な感じを受けますが、水引(糸のようなもの)を丸めたり立てたりしています。
ここでは「4色のひもを使って、不規則な形に組み合わせていきました。青いでかいひもで表したのは、いつもの感情で、赤、緑、紫の少し小さいひもは様々な気持ちを表して、緊張感を表しました。わざと、ひもの長さは適当にしました。」と書いています。

作りながら自分の感じる「緊張感」と擦り合わせていくのか、イメージトのギャップを感じているのか、さまざまな気づきがあります。
「緊張するときは、たくさんの気持ちが混ざり合って、緊張するんだと思いました。例えば、不安みたいな気持ちとかが緊張するときあると思いました。」とあるように、「緊張」というものを考えたときに、様々な気持ちが入りまじることを発見したようです。

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色々と実験を重ねていくと、感情を色や形で表す方法と、材料の特性と関連させて考えていく生徒も増えてきます。
共通事項にあることをしっかりと考え、実体験を伴いながら知識として獲得していくんですね。

この時間は、「細い木の棒を複雑な形に組み合わせた。灰色と黒色のマスキングテープで感情が不安定なことを表した。わざと適当に手で木を折った。」
マスキングテープの簡易的な貼り付け、わざと適当に折った木、という「不安定さ」を表現したようです。面白いのは、プラ板を使って、表裏が見えるようにしているところです。すぐに剥がれそうな感じが見て取れます。そういった材料の特性をうまく使って表現しているのが興味深いです。


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「たくさんの糸を使って、いつもの感情を表し、上から黒と灰色のマスキングテープを使って、緊張しているときの感情を表した。わざときれいにはらなかった。糸をぴんとのばして神経が張りつめている感じを表したかった。」
筋組織のような、神経系のようなピンと張った繊維が緊張感を表しています。
また、「マスキングテープを上からはると、糸の色がすけて見えて、いつもの感情が見え隠れしている感じがした気がする。」
これも材料の特性を活用し、薄いマスキングテープを使って見え隠れするような感じにしています。この見えるようで見えないといったことが緊張を表すことにつながることが分かったんですね。

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この時間はリモート授業での参加でしたが、自宅で色々と実験したようです。

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実験に熱心に取り組むと振り返りの時間があまり取れなくなってしまいます。
しかも、まだタブレットに慣れていない1年生でしたので、記録するのもやっとです。が、やはり記録してどんんアマナビがあったのか、どのようにして発見していったのかは残すべきと思います。

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こちらの画像は、上の生徒とは別のものですが、動画として残しておりました。色水が混ざり合う瞬間を残したいとのことでした。
面白いですね。タブレットがあるといろんなことを記録できます。絵で表現しづらいし、立体でも・・・では動画は?となったわけです。

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作品を作るという授業ではありませんが、生徒の思いとしては何か形に残すべきと思うのでしょう。このようにいろんな成果物が出てきます。
作品としても見応えまります。
残っているからこそ、どんな思い出作ったのか、どんなこと考えてやったのか、どんな緊張のとらえだったのか、話が弾みます。

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共感する人もいれば、自分とは全く違うことを考えている人もいる。「そんこと考えてんの!?」とか、「こんな方法よく思いついたね!」とか教師にとって嬉しい言葉が教室に響いています。

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この「造形実験」のキーはこのプレゼンテーションです。2時間取りまして、全員が発表します。これまで記録してきたものをそのまま話す人もいれば、自分の作ってきたもの、試してきたことを編集して話す人もいます。先にも書きましたが、「そんこと考えてんの!?」とか、「こんな方法よく思いついたね!」という反応です。非常に面白いです。
自分なりの考えが共感されたり、違いについて議論したりと造形感覚を対話を通して深めていく感じです。

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このプレゼンではこのようなことを学びます。

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他の人の発表を聞いて、このようにびっしりメモする生徒もたくさんいます。

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課題としては、こんな感じでしょうか。
1時間でリセットされるため、「次何しよっかな〜」というある意味自由な時間が生まれている。
この何をするか考えている時間が長くなると実験をする時間が減るために、中途半端な時間で終わってしまうという生徒が見られた。
(このような考える時間も大切なんですけどね)

動画編集をする生徒の中には、緊張するシチュエーションをダイジェストにしたyoutube番組っぽいものを作る生徒もいた。デフォルトの音楽を挿入することで本人は満足した感じになっていたが、造形的な視点からみると、果たしてどうなのか・・・と考える場面があった。


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あとはよく、受ける質問で、「なぜ緊張感なの?」があります。
人それぞれいろん捉え方ができるものがいいですね。そして、同じテーマの方がいいと思います。
ネガティブ系でなくても、ポジティブなテーマでも面白いかもしれません。
今度は、ポジティブなテーマで試してみようと思います。まあ、子供たちと一緒に決めていきます。

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今年あった長野の造形全国大会で発表したものをここに載せましたが、ご要望があればリモート等で詳しくお話しできますのでお声がけください。
滋賀県で来年にお話しする予定です。

学びが分断されてしまっているのは、大人のせいです。そもそも学びは分断なんかされてないんだと思います。
この造形実験は、いろんな学びが含まれています。教師側が思ってもいなかったところと関連させて考える生徒もいます。
何よりも、「作品を作ることが目的でない」という考えで授業をしたっていいのではないか?という一つの提案です。

何を描かせるか、何を作らせるか、→つくることを通して何を学ぶのか、どんな力が身につくのか、、、という考えです。
コンピテンシーベースの授業作りをしていくには、大きく考えを変えていく必要があります。VUCAの時代、予測困難な時代を生きていくことになる目の前の子供。「未来の大人」のために僕らはどんな授業をしていく必要があるのか、今が変わるチャンスだと思います。





posted by 田中真二朗 at 14:22| 秋田 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月29日

2022【造形実験について】前編

前のアップは4月でした・・・。今年は、本当に忙しかった・・・。忙しかったというより、学校が変わったことによってこれまで通りに行かない
ことが多くあり、ほぼほぼ全て一からやらなければいけない・・・これが結構辛かったな〜と今振り返ると思います。
でも、学校が変わり、新たな出会いもあるし、新たな気持ちで授業を考えることができたので、それはそれでよかったです。
「なぜ、この授業をやるのか?」

「目の前の子どもにとって本当にこの授業は必要なのか?」

いつも通りにやってたらこんなこと考えずにやってしまうと思いますが、「常に」このことを考えながら授業をしていく必要があると思っています。

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今年になって、コロナ前のようにいろんな場所でお話をさせていただく機会が増えてきました。大変ありがたいことです。GIGAスクールもすでに「当たり前」にことになってきました。ほぼ全ての授業でICTを活用した授業がなされてきた感じです。
だからこそ、美術の授業、従来通りの授業でいいのか?と問いたい。

作品づくりが主流の授業で本当に資質能力が育つのか?

どうしても、「作品をつくらせる」ということ行きがちな美術教師(私も含めて・・・)。
みなさんもそうですよね?

でも、そうではない授業(作品をつくろうとしない授業)でもいいのでは?と考えています。
以前にもご紹介した「造形実験」という授業です。

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前回、造形実験をやってみて思ったのはこういうことです。結局、テーマが決まっているけど表現方法は自分で自由に選択できるよ・・・・的な授業でした。
当初の思惑とはちょっと違ったものとなってしまったのです。
これは、初めに書いたように、どうしても「作品をつくらせなきゃ」といういわば刷り込み的な思考があったのかもしれません。
ですので、今回は、より造形遊びの要素を強めるといいますか、より探究的な要素を強めた授業にしたわけです。

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パワーポイントを活用して、毎時間の記録をパワーポイントにまとめてあります。
これは埼玉大学附属の小西先生の枠を使わせてもらっています。
この時間やるべきこと、やってみての感想、使ったもの、次の時間のこと などの内容です。GIGA始めたばかりということもあり毎時間書き込むだけでも時間が必要です・・・。でも、諦めない。いろんな場面で使わせて慣れてもらうしかありませんからね。毎週曜日を決めてタイピングデーというものを作りました。ICT委員会というものも!年一回、タイピング王決定戦も行いました笑。

それはいいとして、毎時間の記録を残すことは本当に重要だと思います。自分の学びを実感することにも繋がります。
デジタルポートフォリオっていうやつです。写真でも動画でも残せますからね。非常に便利です。

これまでもアナログでやってましたが・・・結構大変なんですよねあれ。写真印刷して渡して・・・・タイムラグもあるしね。

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これくらいの文量なら書けると思いませんか?慣れてないので、書くことも面倒がって少ない感じもします。慣れると結構書いてくるものです。
ちょっとした考えでもメモ程度で残しておくと、自分の思考を俯瞰してみることもできますしね。

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この生徒は、「緊張」と聞いて、自分が一番緊張するであろう「注射」を選択しました。
1時間目は平面で表す。
2時間目は立体で表す。
3時間目以降は自分に合った方法で表す。という流れで進めていきます。

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平面で駐車する瞬間を表現したものを、今度は立体的に表そうとしていますね。腕の端をウネウネしてさせて緊張感を表そうと工夫しています。注射器をリアルにすることでより緊張感が出せたとも書いてあります。

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この4時間目から作風がガラッと変わりました。
「緊張」という捉えを俯瞰して考えてみたようです。身近にある「緊張」というものをテーマに、子供っぽく大胆に表現したと書いてあります。そして、作りながら「緊張」について考え、人によって感じ方も違うことがあると理解したようです。

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5時間目 さらに変化が起きます。作りながらどんどん「緊張」がわからなくなってきたと書いています。わからないながらも、「緊張」の概念を色や形で抽象的に表そうと試みています。紺色の道は永遠に続いていくこと、緑の藁は緊張の渦とのこと。
振り返りでは「完成のない作品作りたい」と書いています。作りながら自分で「緊張」の解釈を楽しんでいるようです。
いよいよ実験ぽくなってきました!

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6時間目 もうすでにコンセプチュアルアートになってきました。包み隠すことによって「緊張」を感じさせるようなものをつくり上げました。
この経験から、多様な材料に興味を示したようです。

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7時間目 制作の最終段階です。
床に触れるか触れないか・・・という緊張感を表しています。長さを調節しながら何度も何度も作り替えながら試行錯誤していました。
ここで、緊張のイメージを表すことが分かったようです。さらに、記録写真にはないのですが、平面の紙を縦にしてそれをカメラで撮影しながら見えるか見えないかの瀬戸際を見せようと頑張っていました。映像表現にまで発展しながら、表現の可能性を探っていました。

造形的な視点を常に考えながら表現し、鑑賞し、考え自分なりの答えを出そうとしていました。
共通事項について、実感を伴いながら、また、表現と鑑賞を行き来しながら造形的な味方・考え方を高めている姿です。

この後は、2時間、プレゼンタイムとなります。このパワーポイント使って説明してもいいですし、新たに自分でスライド作って説明してもいいことにしました。

後編ではもう一人の実験過程を紹介しながら、この造形実験について考えていきたいと思います。









posted by 田中真二朗 at 17:07| 秋田 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月13日

2022年新年度はじまりました!

怒涛の1週間を乗り切り、少しずつですが新しい学校の流れにのることが出来てきた今日この頃です。
みなさんいかがお過ごしですか?

光村図書の美術準備室の特集は、何と!ブルーピリオドの山口つばささん!

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山崎先生の「新学期に心がけたいこと」もあり神回と密かに思ってます。

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そんな第20号に私も載せていただきました…ありがとうございます。前任校の美術室(結構前の状態)の工夫です。

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光村の美術準備室は以下からどうぞ!
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/bijutsu/junbi/20/kohoshi_bijutsu_20all.pdf


今年は色んな教科のTTに入っているため、ものすごく勉強になります。授業開きでの先生方のお話やプリントなど、どれもためになるものばかりです。
今日は音楽のTTに入らせてもらいました。1番最初の授業、しかも音楽の授業を見るのは同じ芸術教科ですがはじめてでした。
いい導入でした。録画しておきたいくらい。いただいたプリントの裏を見るとこんな文章が!

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素敵なメッセージです。若手の先生ですが、尊敬します。
私も全く同じことを1番最初の授業で話します。答えはたくさんあること。世の中に出ると答えのない(答えがたくさんある)問題に溢れていること。
楽しく豊かに生きていくために、美術を知っていること。美術の見方や考え方を使うともっと楽しめること、などなど。

やはり、色んな教科の授業を見ることってものすごく重要なんだと改めて思いました。
数学や音楽、英語など色んな教科の進め方のリズムとか、先生方の授業スキルとか、学び取ることはたくさんあります。
自分の授業にも取り入れながら、日々ブラッシュアップしていきたいと思います。
授業改善の日々はずっと続きます・・・・。まあ、それが教師の仕事ですからね。

疲れが出てくる頃ですので、皆さんゆっくりできる時はしっかりと休んでください。


posted by 田中真二朗 at 22:26| 秋田 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年09月11日

【時期逃しましたけど】オリンピック・パラリンピックを造形的な視点で見る

3年生の部活も終わり、オリ・パラも終わり、さあ一息つくか・・・という時期ですが、学校祭がやってきます。
コロナ禍がここまで長引くとは・・・お恥ずかしい話ですが思っていませんでした。
昨年よりもひどくなっている状況で、先が見えない苦しさがあります。
田舎の秋田でも感染が広がり、夏休み明け若者の感染者が増えている状況です。皆さん、お気をつけください。


色々と発信したいと思っているのですが、どうにも三日坊主な性格でコンスタントにアップできていません。
部活が当面自粛になったので、ここで少しずつ過去の実践等をアップしていきます。
今回は、私の所属する「美術による学び研究会」のメールマガジンで配信している記事を転載します。

「オリンピック・パラリンピックを造形的な視点で見る」
オリンピックの開催に向けた報道が連日のようにされています。コロナ禍で限定された視点でしか見ていないオリンピック。造形的な視点からオリンピックを見てみるとどんなことが見えてくるのか。今回は、聖火トーチをお借りして鑑賞したことを紹介いたします。

「オリンピックと美術」鑑賞授業のきっかけ
 開催まで1ヶ月を切ったオリンピックですが、開催に関しては様々な意見があると思います。ワクチン摂取もまだ思うように進まない中、未だに新規感染者が高止まりしている状況が続いています。海外選手や関係者の水際対策をどうするかなど、開催に向けた感染対策について連日報道されています。本校の生徒にオリンピックの開催についてどう考えるか聞くと、多くの生徒が感染拡大の恐れがあるため開催すべきではないと答えました。驚いたことは、多くの生徒がオリンピックに対して興味がないというのです。エンブレム問題(1) やお金の問題、度重なる失言など、世間を騒がせるのはどうしてもマイナス要素のものばかりです。こうした報道に期待感がもてなくなったのか、またはコロナ禍で自分の意見が言いにくいのか、本当のところは定かではないです。人命より優先するものはありません。開催することによりさらなる感染拡大につながり、医療体制の逼迫など大きなリスクを負うことになるかもしれません。連日の報道を耳にしている生徒はそのようなことにも敏感になってか、オリンピックそのものをネガティブに捉えている感じを受けました。
 聖火リレーが大仙市を通った際、私はトーチの美しい形状に目を惹かれ、何気なくネットで調べてみました。それは吉岡徳仁氏のデザインであり、そこに込められた想いを知るとともに、使われた素材は、東日本大震災の被災者の方々が暮らした仮設住宅のアルミ廃材だということを初めて知りました。このとき、子どもたちがオリンピックに対してネガティブなイメージをもったままオリンピックを終わらせてはいけないと思いました。この授業を行った理由は、オリンピック開催の可否は置いておき、オリンピックに関わる人々とデザインに込められた想いに焦点を当てるためです。コロナ禍で限定的な見方しかできなくなっている今、美術科として多様なものの見方や造形が人に与える影響など伝えるべきことをしっかりと目の前の子どもたちに伝え、共に考えてみようと思いました。
聖火ランナーを務めた本校の保護者にお願いして、聖火トーチをお借りし、急遽全学年を対象に鑑賞の授業を行いましたので、その記録と感じたことをここに記します。
オリンピックと美術との関わり
 今回は独立した鑑賞の授業で、メインの鑑賞は聖火リレートーチです。ですが、他にも映像やエンブレム、メダルや表彰台などのリサイクルについて考えてもらいたいこと、知ってもらいたいことはたくさんありましたが、盛り込みすぎると消化不良になる恐れや、教師の一方的な押し付けになる可能性もありましたので、4つに分けて鑑賞することにしました。

(1)映像メディアとの関わり
授業の導入として、亀倉雄策氏の作成した1964東京オリンピックのポスターを見せました。今から57年も前のものです。今の時代に見ても多くの生徒が「古い感じだけどかっこいい」という反応でした。「人種問題やその他の差別に対するメッセージが込められている」という見方をする生徒もいました。1964東京オリンピックのエンブレムやポスターを鑑賞した後に、リオデジャネイロオリンピックの閉会式に流れた動画 (2)を鑑賞しました。日本という国をより強く印象付けようとする黒い背景に選手と赤い日の丸で構成された映像。日本といえば、アニメでありゲーム、ブラジルでも大人気のキャプテン翼がボールを蹴るシーンやドラえもんやスーパーマリオなど世界的にも認知度の高いキャラクターが映像に花を添えました。当時の日本の首相がスーパーマリオに変身し、ドラえもんが用意した土管に入り、地球の裏側リオデジャネイロの閉会式会場まで一気に移動するというユーモアある演出でした。中でも印象的だったのは、動画中盤、様々な競技の選手がスタートラインに一斉に並ぶような場面です。

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「東京1964オリンピックのポスター」亀倉 雄策氏 制作

1964東京オリンピックの亀倉雄策氏のポスターのような構図で表現されたシーンだと気づかされます。数名の生徒が「あ!」と声をあげました。亀倉氏のポスターと動画のシーンを比較すると一目瞭然です。亀倉氏へのオマージュであり、2020東京オリンピックの3つのコンセプトのうちの一つ、「未来への継承」にも関連する映像作品だと思いました。

(2)エンブレムとの関わり

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「東京2020オリンピック・パラリンピックエンブレム」 野老 朝雄氏 制作


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「東京2020オリンピック・パラリンピックエンブレム」を並べて制作する活動。写真は授業外、教室の外に置いてエンブレムを自由に配置でききるようにしていた。

はじめは個人で考えさせましたが、思うように意見は出ませんでした。TVのCM等ではほぼ毎日のように見るマークですが、どんな想いが込められているかは分からなかったようです。次にグループで意見交換させると考えが一気に広がりました。図(3) だけ見ていてもよくわからない時は、つくってみることで理解が進むこともあります。個人のウェブサイト(4) からダウンロードしたエンブレムのパーツを並べ替えてみる活動を入れると、「四角の数が同じだが並べ替えるとパラリンピックのマークになること、そのことに意味がある。」という意見が出たり、オリンピックという4年に一度の大会であること、世界中からアスリートが集まることなど、四角の印象やイメージ、見立てなどについて様々な話が出てきました。さらに、同じ数で組み換えられること、それは平等という意味にもとれることなど、コンセプトムービーで説明されていることが生徒の口からどんどん出てきました。鑑賞後は野老氏のインタビュー記事(5) を読み、より深い学びにつなげました。数学者から見たエンブレムの話も興味を持っていました。

(3)聖火トーチとの関わり
今回の鑑賞授業のメインでもある、トーチの鑑賞です。はじめは大型モニターに映したトーチを見て話をしました。桜の形状から、桜の意味や桜に関係する事柄について対話を重ねていきました。なぜ桜なのか、「桜は日本人の心」、「日本の象徴」などの言葉は出てきましたがそこから先は思うように言葉はできませんでしたので、現在聖火リレーはどこを走っているかライブ中継をみんなで見ることにしました。走っていた場所は、岩手県雫石町。その日の夕方には沿岸の被災地へと繋がっていく予定でした。そして、借りていた実際のトーチを出してみると、「お〜!」という驚きと感動の声が。一人ずつ持ってみて重さや材質を確かめました。聖火リレーのスタートは福島県から、そして全国を周り終盤は東北の被災地を回っていること、さらには自分の手で持ってみたことなどから、鑑賞を続けました。「5つの花びらで五輪を表している」、桜が咲く時期から考えた生徒は「桜前線のようにオリンピックへの思いが徐々に広がっていく感じ」、「被災者の思いが全国や世界に広まっていく感じ」など、私の予想を上回る考えを出してくれました。

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 最後に、吉岡徳仁氏のインタビュー記事(6) をみんなで読みました。トーチの形をデザインすることに留まらず、聖火リレーのあるべき姿を作り出すためにトーチをデザインしていること。『東京2020オリンピック聖火リレーで用いるトーチは、日本人に最もなじみ深い花である桜をモチーフとしています。2021年3月、桜の季節の訪れとともに、オリンピック聖火は「Hope Lights Our Way / 希望の道を、つなごう。」という東京2020オリンピック聖火リレーのコンセプトと一体となり、日本全国を巡ります。素材の一部には、東日本大震災の復興仮設住宅の建築廃材が使用されています。人々の生活を見守ってきた仮設住宅が、平和のシンボルとしてオリンピックトーチに姿を変え、一歩ずつ復興に向けて進む被災地の姿を世界に伝えます。』(7) 聖火リレートーチができるまでの映像 (8)を見ると、吉岡氏のインタビューの言葉も相まって、心が揺さぶられるような感じでした。多くの生徒が思いを新たにした瞬間だったと思います。

(4)材料との関わり(SDGs)
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上の図は「東京2020×持続可能」(9) 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が作成した、「大会の持続可能性」に関する資料です。大会のコンセプトにもあるように、「未来への継承」ということで様々な面で環境に配慮した取組がなされています。先に紹介したトーチもリサイクルです。報道等でもご存知の方も多いと思いますが、今大会のメダルも都市鉱山から作るというプロジェクトでした。式典の衣装も、上位選手が立つ表彰台もリサイクルです。授業の最後に、これらのプロジェクトに関する映像を流して感想を書く時間としました。
 携帯電話の中の金属からメダルが作られることへの驚き、様々な化学変化を経て美しいメダルに変わること、都内の小学校で集められたプラごみが日本の技術で素材へと変わり、3Dプリンターで表彰台が作られることなど、これまで知らなかったオリンピックの裏側を垣間見て、一様に驚いていました。
以下、生徒の感想です。
『コロナが広まることしか考えていなかった自分の考えがあまりに狭いものだと感じました。一つのものに対して、たくさんの想いが込められていて、自分でも想像できなかったことが表されていて面白かったです。コンセプトを意識しながらも、ここまで幅広く表現されているのは、見ている人の視覚、思考を虜にできるものなのだと思いました。ただ、「もの」を見て捉えるだけでなく、そこに至るまでの「過程」を感じることによって、それらに対する気持ちが変わり、感謝の気持ちも湧いてくるのではないかと思っいました。「個・群・律」という考えは自分たち、いやこれからの「未来の継承」のために必要だと思いました。』
『今回の授業を通して、絵だけでなくオリンピックというスポーツの祭典にも美術があることが分かりました。デザインへの想いを聞くと、オリンピックに合った想いだとな感じました。オリンピックはただスポーツをして全力で戦ったり応援するものだと思っていたけど、一人一人、みんな違うけど、一丸となって支え合う場所でもあったり、みんな平等ということを改めて知る場所でもあるんだと、見方が変わりました。これからはデザインへの想いやそのデザインにした理由なども考えたり知ったりしてみたいです。また色々な見方をして物事を見てみたいと思いました。オリンピックにたくさんの方々が関わっていることも忘れず見たいです。(オリンピックだけでなく、様々なことも)』
『これまでオリンピックについてあまり関心を持ったことはありませんでしたが、今回の授業で触れることができました。エンブレムやトーチのデザインは本当に時間をかけて、ただ美しいからという理由ではなく、社会への希望や願いを込めていました。メダルやトーチなど、オリンピックに関わるものは持続可能な社会を目指して全てリサイクルで作られていました。スポーツとは、ただ楽しむだけのものだと思っていましたが、それは違いました。スポーツを通して人と人が、国と国がつながり、地球全体で一体になると思いました。たくさんの人の想いや願いをのせているオリンピックは、最初はコロナの関係でやらない方がいいと思っていましたが、ぜひ、この想いは世界中に発信してほしいと思います。』
 たくさん紹介したいのですが、あとは抜粋で。
『コロナ感染があるから開催に大賛成ではないけど、このオリンピックに対する日本の考えや過程はもっと発信するべきだと感じた』『トーチを見るのと、持ってみるとの違いが大きく驚いた。何だろう、被災地の方々の思いとか、アルミ廃材という事実知ったからなのか、ずしっと重さを感じた』『オリンピックの表面しか見ていないで自分の考えを言ってたことを恥ずかしく思う。多分、こういうことがたくさんあるんじゃないかとも思った。立場を変えて見ること、分かっているようで、何もわかっていないことの恐ろしさを感じた授業だった』『学校の授業で感動したのは初めてです。』『ものの形だけデザインするのがデザイナーと思ってたけど、デザイナーの考えているスケールが凄すぎて自分もデザイナーになりたいと思ってしまった』『デザイナーが込めた想いを知るたびに、どんどん引き込まれる感覚だった。トーチは美しいのだけど、単なる美しさではない。そう思わせるところがデザインの面白さかもしれない』

おわりに

 全学年で鑑賞を行いましたが、それぞれの学年で現在行っている授業との関わりやポイントとなる考え方につなげることができたと思います。1年生に関しては、ロゴマークを色々調べて、そのマークに込められた想いや願いなどを考える授業の導入にもなりました。2年生では、この授業の後、木材を扱う授業を予定していました。これまでは、使用する木材がどこからくるのかなんて考えもしませんでしたが、地域の木材を使うこととし、林業に携わる方々にインタビューし、どのようにして材料になるかを見せてもらってから制作にはいろうと考えています。3年生は、デザインと社会の関係性についてより深めていければと考えています。
 先に紹介したエンブレムの鑑賞、トーチの鑑賞もそうでしたが、形や色彩から受ける印象やイメージというか、見立てる力というか、連想する力と言えばいいのか、うまく言葉にできませんが、そういう力が必要になる鑑賞でした。さらに、材料というものに注目したことで、鑑賞の幅が広がったと思います。子どもたちにとっては、材料としか見ていなかったものが、その材料に込められた思いや意味があること、材料自体が作品全体のコンセプトになるという見方や考え方を得ることができました。
子どもの感想にもありましたが、オリンピックの開催に関わらず、オリンピックに向けたこれまでの過程をもっと世界に発信してほしいと思います。スポーツや芸術を通して世界中の人々と楽しさや感動を共有できる日を心待ちにしています。

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田中 真二朗(たなか・しんじろう)
秋田県生まれ。秋田県大仙市立西仙北中学校教諭。
宮城教育大学大学院修了後,宮城県私立高校非常勤講師,秋田県内の公立中学校を経て,2013年4月より現職。生徒と地域をつなぐ実践に力を入れ、美術だけに囚われずにより広く「学び」を考えて日々実践中。
教育課程研究指定校(国立教育政策研究所,平成26年〜28年度指定)。2012年,博報賞受賞。近著に『中学校美術サポートBOOKS造形的な見方・考え方を働かせる中学校美術題材&授業プラン36 』(明治図書2019年)がある。


(1) 佐野氏の考案したエンブレムが公式エンブレムとして選出されたが、選出過程や応募作のオリジナリティの有無が物議を醸し、組織委員会がエンブレムの使用を中止した。
(2) N H Kのオリンピックのサイト  https://sports.nhk.or.jp/olympic/video/5c8c520075ec4990bee343448cf34e77/ 
(3) 引用 東京2020公式ホームページ https://note.com/takuma_0726/n/ncd8e0bb85b93
サイト内でエンブレムコンセプトムービーも見ることができます。
(4) 小学生でもできる!東京2020のエンブレムのつくりかた
 https://note.com/takuma_0726/n/ncd8e0bb85b93 
(5) パラサポWEB https://www.parasapo.tokyo/topics/22117 
(6) 吉岡徳仁ロングインタビュー「想いをかたちにするデザイン」 O P E N R S 2019年7月31日
 https://openers.jp/design/design_features/IB9E8 
(7) 引用 東京2020公式ホームページ 東京2020オリンピック聖火リレートーチ
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/torch/about/brand-design-torch 
(8) 東京2020オリンピック 聖火リレートーチができるまで https://www.youtube.com/watch?v=WIVUKcEYm8g 
(9) 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が作成した大会の持続可能性に関わる資料
https://gtimg.tokyo2020.org/image/upload/production/xnfwjwetfcuvybjkcjfs.pdf 



発信したのは、7月4日とオリンピックの前でした。


最後まで読んでいただきありがとうございました!


では、また何かの実践をアップします。




posted by 田中真二朗 at 10:20| 秋田 🌁| Comment(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月22日

新年度始まりました・・・

今年度で9年目の職場です。今年入ってきた1年生が3歳の頃から、ここで働いているんだな・・・と生徒と話していて気づかされました。
今年度は他の中学校へも美術を教えにいくという「兼務」が発令されました。非常勤で4校掛け持ちは経験あるので、なんとかなるかな・・と。
さらに、今回新たに「ICT主担当」というよくわからないものに任命されました。
そう、GIGAスクール構想のあれです。昨年度の2月頃に突然運び込まれた感じのタブレットPC 。パソコンルームにはそれらを充電するボックスが並べられ
いよいよ始まるのだな・・・とちょっとワクワクした気持ちを抱いていましたが・・・まさかの主担当となり4月最初は困惑しかありませんでした。
PC を筆記用具のように学習ツールの一つとして使いこなせる生徒・・・というのが目指す子供の姿です。
やるとなったらすぐやらないと気のすまない性分(いろいろ問題あり)ですので、まずは使わせてみよう!ということで贈呈式を行い、なぜタブレットが渡るのか、これをどう使っていくのか、このPCの説明やらいろいろプレゼンに盛り込んでやってみました。本市のタブレットのOSはマイクロソフト。teamsを使ってます。
全校150人くらいしかいない小規模校ですが、全員で同じ場所でログインしたらトラブル続出!
急遽、それぞれの教室でログインさせることに。その前に・・・校内のWIFI環境の悪さを常日頃から委員会へ行って改善してもらっていた本校ですが、新たにGIGAスクールでWIFIも一新!なのに、接続範囲がものすごく限られたエリアになり全く使えない環境になってしまっていたのでした。以前はどこに行ってもWIF I繋がってたのに・・・。
まあ、いろいろあってなんとか軌道に乗せようと頑張ってきたこの1ヶ月。

養護教諭から提案された毎日の健康チェックシートのデジタル化。(これまでは1人一枚自分の用紙に体温を記入し各種症状がないかチェックするシート)
毎朝、生徒が登校したらPCを開き、formsのショートカットからアンケート画面に行き健康チェックをするというシステム。

この毎朝というのがポイントで、teamsを開かせてクラスや委員会の連絡が来ていないかチェックすることにもつながります。

そうそう、特別に専門委員会も創設してしまいました。各クラスから1名の少数精鋭部隊です。この委員たちがクラスでのICTサポーターになります。先生の指示をよりわかりやすく伝えたり、実際に困っている生徒に手助けしたり。他の委員会で使う資料やプレゼンも手伝います。
今は休み時間も自由に使える状況にしています。そうして泳がせておきながら、委員たちが使用状況をチェックしているのです。この後のルール作りのためです。

授業でも活用するように呼びかけると、理科や社会で早速使ってくれています。カメラで実験を記録したり、振り返りの際にforms使ってクイズ形式でやってみたり。

生徒会執行部にお願いしてペーパーレス生徒総会にしたり、各委員会でも有効活用してもらってます。
これまで時間をかけてやっていたことがこのICT機器によって一瞬で終わったり、即時全員で共有できたり。ほんとに便利さを実感しています。
生徒もやりたいことがどんどん増えていくし、新たなことに挑戦しようとするし、そんな姿をみていると頼もしいです。

さて、美術ではどうか。
3年生で取り組んでいた地域の課題を美術で解決!建築模型の授業でフル活用しています。

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まずは、カメラ機能。これはもう自由に使えます。

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このグリーンバック。いろいろ使うだろうと購入していたものです。写真を撮って

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合成!という感じでバンバン使っています。

制作途中の経過などはデジタルポートフォリオとしてパワーポイントに蓄積させています。(もっといいものあれば教えてください)

検索はすぐにできるし、関連する情報を自分で集めて学びを深めることもできるし、ホワイトボード機能を使って一瞬でみんなとアイデアを
共有したり、イメージ画像を見せあったりとか。
この1ヶ月突っ走ってきたけど、だんだん見えてきました。あとは、年間指導計画作ったり、効果的な使用方法を追究したり、業務改善につながる使用方法を探していきたいと思います。

こういうものって楽しんだもん勝ちだと思います。
やる前から文句や愚痴しか言わない方もいますが、前に進まないし子供たちのためにならないしね。



posted by 田中真二朗 at 15:40| 秋田 ☀| Comment(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月22日

「造形実験」という新たな分野を模索する

年度末・・・いつものように慌ただしい時期です。
コロナに始まりコロナに終わった1年でしたが、まだまだこのコロナは長引きそうです。
悔しい思いをたくさんしてきましたが、その反面、教育業界も意識変容が起こり、ICT普及も飛躍的に進みました。

さて、標題にもある通り、「造形実験」というものを全国の先生方と共に研究してきました。
その成果、というよりも手探り状態の実践結果を「武蔵野線沿線美術教育実践学習会」通称「び会」で発表させていただきました。

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この「び会」について、少しご紹介します。数年前に一度呼んでいただき、講演という形でお話しさせていただいたことがあります。(何とおこがましい)
参加されている方々の熱量に秋田との差を感じたことを昨日のように憶えています。皆さん会費を払って全国から講師を呼び、一緒に勉強する会です。その熱量は今も変わらず、授業の展覧会を積極的に開催しています。授業実践の展覧会では、うらわ美術館を会場に、全国の保育園・幼稚園・小・中・高等学校・特別支援学校から大学の美術教育の実践まで広く展示し、クラウドファンディングを活用しながら、立派な記録集も作成し配布、広報しています。

話を戻しまして・・・・。
この「造形実験」ってなんぞや・・・?
簡単に言うと、小学校の「造形あそび」の中学生版です。武蔵野美術大学の三澤先生の過去の実践をもとに考えられたものです。
三澤先生曰く、A表現、B鑑賞、C造形実験(←面白い!)というカテゴリーで展開したいとのこと。
あるテーマに基づいて、思考判断表現することを通して知識・技能を高めていくと言う感じでしょうか。小学校の「造形あそび」もいまだに小学校では定着していないと言う話もありました。結構年数が経ってもなお、まだ取り組まれていない現状・・・これはなんとかしないといけません。造形感覚の基礎を養う大切な体験であり、立派な学びだと思います。

もうすでにやっているよ!という方もいると思います。
「光」の授業では初めの段階で実験的な活動、造形あそびのようなことをしているものです。
また、うちの学校では、絵具などの描画材料の使い方、紙の可能性を探る探求活動など要所要所で「実験的」な活動を取り入れています。
これらの活動は、そのあとの制作に関わる「発想」の一助となるものと認識しています。
今回のこの「造形実験」は新たなカテゴリーとして提案されています。そこがポイントだろうと思います。
学習指導要領の次の改訂のための実践の積み上げでもあります。まあ、そんなことはさておき、中学校にも造形あそび的な活動が欲しいと思っている者からすれば、歓迎しかありません。

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発表の際に使ったプレゼン資料も合わせて簡単に実践を紹介します。
当初、三澤先生の方からは1年生で行い、10時間で設定、はじめ1時間を概要説明とし、実験段階を7時間、最後の2時間を全体へ向けてのプレゼン(シェアリング)という形で提示されました。パイロット授業として埼玉大学付属中の小西先生が行い、研究協力者全員で数回ウェブミーティングを重ねたり、SNSで実践をアップしたりしながら交流を続けてきました。

本校では、全8時間の設定で行いました。

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「緊張感を考える」というテーマで行いました。
定まった形のないもの、実体のないものをテーマとし、生徒の生活、経験からイメージを膨らませそれを色や形にアウトプットするものです。

本校の1年生は2クラスありますが、A組とB組で少し活動内容を変えてまさに「実験」をしてみました。

○概要説明とイメージ
概要説明の際は、双方ともに「緊張感」に関する体験やエピソードを話し合う活動を入れました。思い起こしやすくするために、時、場所、人、物というカテゴリーに分けて想起することを書き出させます。書いたエピソードをもとに色や形にアウトプットする感じです。仮の主題を文章で書ける生徒には書くように伝えました。

○アイデアスケッチと実験
その次の活動では、A組は、仮の主題を基に様々な材料を選択して試作を繰り返します。
B組は、平面と立体のドローイング(アイデアスケッチ的なこと)を取り入れました。

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生徒の頭にあるイメージに近づくにはどういった材料が最適か、どの表現方法がいいかなど、探求することになります。
A組は、はじめに手にとった材料で最後まで作品にしていく生徒が多くいたように思います。ですが、B組はあれこれと材料や表現方法を変えながら「実験」している生徒が多くいた印象を受けます。

こちらの声かけもあるかと思いますが、このドローイングをしたことによって、生徒には様々な刺激があったのではないか推察します。

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出来上がった作品をみんなの前でプレゼンします。
このプレゼンが、本当によかった!生徒の視点の広がりは想像以上のものでした。

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どんどんイメージが変わっていった生徒のアイデアスケッチや振り返りと最終的な作品です。

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この生徒は、初め、暗がりにある蝋燭の灯りを描いていましたが、つくりながらイメージを変えていき、最終的にはシーソーのようなものを制作しました。

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この生徒は、はじめからつくりたいイメージが決まっているパターンの子です。つくりたいイメージが明確にあるので、どういった材料で再現可能かを実験しているのでしょうか。作り込みの密度が高まるのは、こういったパターンの生徒です。
しかし、この作品面白です。小学校の先生から言われた言葉を基にした作品だそうです。みんなじゃがいもって。

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この生徒もはじめから作りたいことが決まっていました。怪我をテーマにしたものですが、その怪我の瞬間的なものを死神に見立てているあたり、ものすごい面白い!この死神のイメージは、クラゲのようなものだというので、どうしたら透明感やプルプル感を出せるかいろんな材料を使って実験していました。
最終的には、樹脂粘土で表現することで納得したようです。

他にもいろんな作品が生まれました。

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「緊張感」という捉え方もそれぞれですし、捉えたものをどう表現するかも多様性があり本当に面白いです。
本当は、生徒それぞれの美術ノートが面白いです。自分の考え、試したこと、失敗したことなどが記録されています。この美術ノートの記録とこの経験が
生徒たちの力になっていると思います。

そう、この授業で大切なのは、「作品」ではないということ。

このことを強く思いました。

作品として残すことを意識してしまう傾向にある我々美術教師。この授業は「実験」なので、作品を残すことをそこまで意識しなくてもいいのではないかと思うのです。
小学校の造形あそびのように行為性を大切にすることがポイントなのではと思います。

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授業後に生徒にアンケートを取ってもらいました。
これまで使ってこなかった材料に触れることで、表現できる可能性が広がったことを実感する生徒が多くいたようです。
やはり、触りながら創造性を高めているんでしょう。美術の学びの大切なポイントの一つですね。
視覚優位、触覚優位という言葉が研究会では出ていた思います。

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成果と課題ですが、もう少しやてみるとより見えてくるものもあるかなと思います。
先にも色々と気づいたことを書いておりますが、、一番大きな成果は、表現の多様性を実感的に理解したことでしょう。さらに表現意図と材料の関係性や形や色との関係性を実感したと思います。これが共通事項です、知識ということになります。

課題は、主題を明確にさせるべきか?ということです。これは色々と議論されましたが、「実験」という活動を優先するのであれば、より多くの実験を繰り返して自分なりに得たことをレポートなどにまとめて発表した方がいいのではないかと思っています。
ギガスクール構想で1人1台PC がきます。デジタルポートフォリオで記録することを、今後やっていこうと思います。

評価については、この美術ノートに記録された振り返りを見ながら行いました。
実験の記録として造形的視点を考えながら行われていたか、プレゼン後の感想には自己の変容も書いてもらいました。自己評価も基にしながら
評価を行います。(ここで注意しなければいけないのが、国語的な評価に陥るとダメなこと。文章の良し悪しで評価するのではないので、事前に文章表現が得意でない生徒や、記録を残さない生徒を把握し、こちらで活動の記録や発言等をメモしておくことです。クラスに何十人もいるわけではないので、こうした配慮はやっておくべきです。)

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どのような作品をゴールにするか・・・ではなく、どのような子どもの姿をゴールにするかを考える必要があります。

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先日、1.2年生の授業を終えました。

1年生の多くは、この「造形実験」について印象に残っていることを書いてくれました。
ある生徒の感想です。
「中学校の美術では、図工よりも自由を感じました。その自由が苦手だと思ったり、怖いと思ったりすることもあったけど、他人と違うことが当たり前だと教えてもらい、他人と違う考えができることに誇りを持つことができるようになりました。自分の思い、考えを形として表すことは難しいと思ったけど、形にすることには無限のやり方があり、そのやり方の中で自分にピッタリだと思うものを見つけることの大切さ、楽しさを知ることができたと思います。」

自由が怖い・・・。この言葉はドキッとしました。


来年度から、中学校の学習指導要領が全面実施となります。
目の前の子どもは、「未来の大人」です。そのことを常に頭に入れて、美術の授業のみならず、学校教育全体を変革していく必要がありそうです。

来年もこの造形実験を設定してブラッシュアップしていきます。


何か感想、ご質問等ありましたらメールください。
ともに勉強していきましょう。

今年度もお疲れさまでした。




posted by 田中真二朗 at 10:54| 秋田 ☁| Comment(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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