年度末・・・いつものように慌ただしい時期です。
コロナに始まりコロナに終わった1年でしたが、まだまだこのコロナは長引きそうです。
悔しい思いをたくさんしてきましたが、その反面、教育業界も意識変容が起こり、ICT普及も飛躍的に進みました。
さて、標題にもある通り、「造形実験」というものを全国の先生方と共に研究してきました。
その成果、というよりも手探り状態の実践結果を「武蔵野線沿線美術教育実践学習会」通称「び会」で発表させていただきました。

この「び会」について、少しご紹介します。数年前に一度呼んでいただき、講演という形でお話しさせていただいたことがあります。(何とおこがましい)
参加されている方々の熱量に秋田との差を感じたことを昨日のように憶えています。皆さん会費を払って全国から講師を呼び、一緒に勉強する会です。その熱量は今も変わらず、授業の展覧会を積極的に開催しています。授業実践の展覧会では、うらわ美術館を会場に、全国の保育園・幼稚園・小・中・高等学校・特別支援学校から大学の美術教育の実践まで広く展示し、クラウドファンディングを活用しながら、立派な記録集も作成し配布、広報しています。
話を戻しまして・・・・。
この「造形実験」ってなんぞや・・・?
簡単に言うと、小学校の「造形あそび」の中学生版です。武蔵野美術大学の三澤先生の過去の実践をもとに考えられたものです。
三澤先生曰く、A表現、B鑑賞、C造形実験(←面白い!)というカテゴリーで展開したいとのこと。
あるテーマに基づいて、思考判断表現することを通して知識・技能を高めていくと言う感じでしょうか。小学校の「造形あそび」もいまだに小学校では定着していないと言う話もありました。結構年数が経ってもなお、まだ取り組まれていない現状・・・これはなんとかしないといけません。造形感覚の基礎を養う大切な体験であり、立派な学びだと思います。
もうすでにやっているよ!という方もいると思います。
「光」の授業では初めの段階で実験的な活動、造形あそびのようなことをしているものです。
また、うちの学校では、絵具などの描画材料の使い方、紙の可能性を探る探求活動など要所要所で「実験的」な活動を取り入れています。
これらの活動は、そのあとの制作に関わる「発想」の一助となるものと認識しています。
今回のこの「造形実験」は新たなカテゴリーとして提案されています。そこがポイントだろうと思います。
学習指導要領の次の改訂のための実践の積み上げでもあります。まあ、そんなことはさておき、中学校にも造形あそび的な活動が欲しいと思っている者からすれば、歓迎しかありません。

発表の際に使ったプレゼン資料も合わせて簡単に実践を紹介します。
当初、三澤先生の方からは1年生で行い、10時間で設定、はじめ1時間を概要説明とし、実験段階を7時間、最後の2時間を全体へ向けてのプレゼン(シェアリング)という形で提示されました。パイロット授業として埼玉大学付属中の小西先生が行い、研究協力者全員で数回ウェブミーティングを重ねたり、SNSで実践をアップしたりしながら交流を続けてきました。
本校では、全8時間の設定で行いました。

「緊張感を考える」というテーマで行いました。
定まった形のないもの、実体のないものをテーマとし、生徒の生活、経験からイメージを膨らませそれを色や形にアウトプットするものです。
本校の1年生は2クラスありますが、A組とB組で少し活動内容を変えてまさに「実験」をしてみました。
○概要説明とイメージ
概要説明の際は、双方ともに「緊張感」に関する体験やエピソードを話し合う活動を入れました。思い起こしやすくするために、時、場所、人、物というカテゴリーに分けて想起することを書き出させます。書いたエピソードをもとに色や形にアウトプットする感じです。仮の主題を文章で書ける生徒には書くように伝えました。
○アイデアスケッチと実験
その次の活動では、A組は、仮の主題を基に様々な材料を選択して試作を繰り返します。
B組は、平面と立体のドローイング(アイデアスケッチ的なこと)を取り入れました。

生徒の頭にあるイメージに近づくにはどういった材料が最適か、どの表現方法がいいかなど、探求することになります。
A組は、はじめに手にとった材料で最後まで作品にしていく生徒が多くいたように思います。ですが、B組はあれこれと材料や表現方法を変えながら「実験」している生徒が多くいた印象を受けます。
こちらの声かけもあるかと思いますが、このドローイングをしたことによって、生徒には様々な刺激があったのではないか推察します。

出来上がった作品をみんなの前でプレゼンします。
このプレゼンが、本当によかった!生徒の視点の広がりは想像以上のものでした。


どんどんイメージが変わっていった生徒のアイデアスケッチや振り返りと最終的な作品です。


この生徒は、初め、暗がりにある蝋燭の灯りを描いていましたが、つくりながらイメージを変えていき、最終的にはシーソーのようなものを制作しました。


この生徒は、はじめからつくりたいイメージが決まっているパターンの子です。つくりたいイメージが明確にあるので、どういった材料で再現可能かを実験しているのでしょうか。作り込みの密度が高まるのは、こういったパターンの生徒です。
しかし、この作品面白です。小学校の先生から言われた言葉を基にした作品だそうです。みんなじゃがいもって。


この生徒もはじめから作りたいことが決まっていました。怪我をテーマにしたものですが、その怪我の瞬間的なものを死神に見立てているあたり、ものすごい面白い!この死神のイメージは、クラゲのようなものだというので、どうしたら透明感やプルプル感を出せるかいろんな材料を使って実験していました。
最終的には、樹脂粘土で表現することで納得したようです。
他にもいろんな作品が生まれました。






「緊張感」という捉え方もそれぞれですし、捉えたものをどう表現するかも多様性があり本当に面白いです。
本当は、生徒それぞれの美術ノートが面白いです。自分の考え、試したこと、失敗したことなどが記録されています。この美術ノートの記録とこの経験が
生徒たちの力になっていると思います。
そう、この授業で大切なのは、「作品」ではないということ。
このことを強く思いました。
作品として残すことを意識してしまう傾向にある我々美術教師。この授業は「実験」なので、作品を残すことをそこまで意識しなくてもいいのではないかと思うのです。
小学校の造形あそびのように行為性を大切にすることがポイントなのではと思います。


授業後に生徒にアンケートを取ってもらいました。
これまで使ってこなかった材料に触れることで、表現できる可能性が広がったことを実感する生徒が多くいたようです。
やはり、触りながら創造性を高めているんでしょう。美術の学びの大切なポイントの一つですね。
視覚優位、触覚優位という言葉が研究会では出ていた思います。


成果と課題ですが、もう少しやてみるとより見えてくるものもあるかなと思います。
先にも色々と気づいたことを書いておりますが、、一番大きな成果は、表現の多様性を実感的に理解したことでしょう。さらに表現意図と材料の関係性や形や色との関係性を実感したと思います。これが共通事項です、知識ということになります。
課題は、主題を明確にさせるべきか?ということです。これは色々と議論されましたが、「実験」という活動を優先するのであれば、より多くの実験を繰り返して自分なりに得たことをレポートなどにまとめて発表した方がいいのではないかと思っています。
ギガスクール構想で1人1台PC がきます。デジタルポートフォリオで記録することを、今後やっていこうと思います。
評価については、この美術ノートに記録された振り返りを見ながら行いました。
実験の記録として造形的視点を考えながら行われていたか、プレゼン後の感想には自己の変容も書いてもらいました。自己評価も基にしながら
評価を行います。(ここで注意しなければいけないのが、国語的な評価に陥るとダメなこと。文章の良し悪しで評価するのではないので、事前に文章表現が得意でない生徒や、記録を残さない生徒を把握し、こちらで活動の記録や発言等をメモしておくことです。クラスに何十人もいるわけではないので、こうした配慮はやっておくべきです。)

どのような作品をゴールにするか・・・ではなく、どのような子どもの姿をゴールにするかを考える必要があります。



先日、1.2年生の授業を終えました。
1年生の多くは、この「造形実験」について印象に残っていることを書いてくれました。
ある生徒の感想です。
「中学校の美術では、図工よりも自由を感じました。その自由が苦手だと思ったり、怖いと思ったりすることもあったけど、他人と違うことが当たり前だと教えてもらい、他人と違う考えができることに誇りを持つことができるようになりました。自分の思い、考えを形として表すことは難しいと思ったけど、形にすることには無限のやり方があり、そのやり方の中で自分にピッタリだと思うものを見つけることの大切さ、楽しさを知ることができたと思います。」自由が怖い・・・。この言葉はドキッとしました。
来年度から、中学校の学習指導要領が全面実施となります。
目の前の子どもは、「未来の大人」です。そのことを常に頭に入れて、美術の授業のみならず、学校教育全体を変革していく必要がありそうです。
来年もこの造形実験を設定してブラッシュアップしていきます。
何か感想、ご質問等ありましたらメールください。
ともに勉強していきましょう。
今年度もお疲れさまでした。