2020年09月17日

北脇昇「クォ・ヴァディス 」を鑑賞して 1年生

前回のアップでは3年生の学びについて紹介すると書いてましたが・・・。1年生の鑑賞について面白かったので記します。

短時間ですが、北脇昇氏の作品「クォ・ヴァディス 」を鑑賞しました。

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北脇昇(1901ー1951) 作品名「クォ・ヴァディス 」昭和24年 油彩・キャンバス・額 91.0x117.0  東京国立近代美術館


どのような絵か、何が起きているのか、自分との関わりで見てみることを指示しました。
手元にA4サイズにプリントアウトした作品をもとに、まずは一人でじっくりと鑑賞しました。

生徒A
男の人が大勢の人の中に行こうとしている絵。
この男の人は、たくさんの人の輪に入ろうとしてしているが、背中からは少し寂しさが感じられる。前は自分の気持ちを押し通そうとしすぎて、人から厄介者だと思われていた。右にあるお墓は自分自身のもので、自分自身で気持ち殺したのだろう。左にある殻は、昔自分がまとっていた物だ。押し通そうとするダメな部分もあったが、自分の気持ちに正直という良い部分も持ち合わせていた。しかし、男の人は、自分を嫌いになった。自分の殻を破るそれは、すべての人にとって良いことではない。男の人は自分に嘘までついてたくさんの人の輪に行くことを決心した。
 人と違うというのは時にには恐怖になることもある。人と同じというのは安心する。でも、やり過ぎれば自分というものを失ってしまう。私も男の人のように人と同じ方向に向かっていくことがある。自分の考えをしっかり持てるような人になりたい。

生徒B
ファンタジーが強い絵だと感じた。知識(本)と道具(袋)を持った巨人に、小人たちが群を成して立ち向かおうとしている絵。左下に描かれている不思議な物体は巨人が創り出した物。右下には墓が建てられている。この絵を現代の世界と重ねたとき、人類(小人)が全く新しい発想、道具、時代に挑戦する様を描いているのだと感じた。小人がいるところは草が生え、奥には森のようなものも見える。しかし、巨人のところは巨人と物体と墓以外何もなく、草もない。この事から、人類は新しいことに挑戦し続けているが、それと同時に、環境破壊など多くの失う物、問題に直面していくようだと思った。自分も小人のように恐れずにいろんなことに挑戦していきたいと思った。

生徒C
一人の男性が大勢の人から置いていかれているような表現をした絵。光が左に当たっていることがわかる。
自分の考えだと、古着を着た男性がみんなとは違う考え、違う思考のせいで、まわりから「変わった子」と思われるようになり、みんなと距離を縮められず大勢に見捨てられた人間の一人だと思う。この作品は光が左に当たっていることがわかる。だから、この男性は違う考えを持っているので光がある方に向かうだろう。そして大勢の人たちは、右側にある建物に向かって歩いていくと思う。けれどそこは天気が悪く大雨だとしても、男性は左に光があっただけでそこに明確にはわからないが自分の考えを持って進むのが一番良いと思う。
私の場合は、近くにある物で早くみんなに追いつける乗り物をつくり、たとえみんなに嫌われていても一緒にいるだろう。理由は、そこで個人の考えををもっと自分から言って欲しいから。決して、みんなと同じく生きなくても良いんだと伝えると思います。

生徒D
私はこの絵を見て、戦後の風景で亡くなった人に誰かが花を供えている絵だと思います。この絵の中では、みんなが戦争が終わって喜んでいるパレードをしている中、遠くで男が見ている感じなんじゃないかと思います。その男は戦争で家族を失い、放心状態で立っています男の顔は見えませんが、泣いているんだと思います。独りで生きていくのは難しいからです。私がこの男だったら今持っているものを全て置いていって「また新しい生活を始めよう!」とポジティブに心の中で盛り上げていくんじゃないかなと思います。

生徒E
悩んでいるような絵に見えた。足元に道を表す看板のようなものがあるので右か左かで迷っている。私には人生の選択をしているように見えた。人がみんな進んでいく常識通りの左。進み方や道はわからないが、ゴール(目標や目的)がわかる右。私はこの男性が右を選んだと思う。その理由は、影で判断した。貝殻のようなもの、男性、花、全部に影がついている。でもその向きは全部同じ右だったからだ。だから私は右だと思った。私もこれからこの絵のようなことが起きるかもしれない。そして、私も右を選ぶかもしれない。そう思った。

生徒F
絵の中心にいる人は旅人といった風体です。旅人の足元には標識のようなものが設置されています。私はこの絵を人間の選択と捉えます。旅人の左の道にはたくさんの人々が列を成しています。これは、多勢の人と同じ道、大義などを表しているように感じます。一方、旅人の右の道には雨雲のようなものが立ち込めています。奥には林のようなものも見えますし、これは修羅の道、マイノリティなどを表しているように感じます。この絵からは全体的に比喩や風刺が感じられますが、もし、本当に世界にこのような場所があるのなら、私は右の道を歩きます。左の道は大義に埋もれて息が苦しそうですが、右の道は険しいけど空気が澄んでいそうです。

一枚の絵画作品を鑑賞してこんなにも多様な見方ができます。
今の自分の気持ちや置かれている状況など、ストレートに感想として出てくるあたりが非常に面白いです。
その生徒の抱えている悩みや気にしていることも見え隠れしています。

次の時間までにみんなの見方を掲示して見てもらおうと思います。そして、再度、この絵を鑑賞して対話します。
どのように見方は深まっていくのか、とても楽しみです。(しっかりと考えを持たせてから対話させたいと思い、今回は短時間で2つの鑑賞を行い、シートに書かせました)
3年生になって修学旅行に行った際には、ぜひ東京国立近代美術館で本物と出会わせたいですね。

さらに、デザインの鑑賞もしました。

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生徒に聞くとBのロゴが人気です。スプラトゥーンに似ているからでしょうか?
でも、しっかりと選んだ根拠があるようです。
自由な色使いで今の世界を表している。型にはまらない塗り方でいい。黒い丸い線は地球を表し、それを突き破るように色があふれて飛び散り、混ざり合っている。新たな文化や技術を表しているんじゃないか。黒いOは大阪のOだ!などなど、色や形やイメージを捉えて造形的な意味を考えています。Aのドーナツ型の意味とか、線の集まりの意味とか、1年生とは思えないそんな意見ばかりです。

やはり鑑賞は面白いです。この鑑賞が、制作にも生きてきます。独立した鑑賞の授業は絶対にやるべきです。


次こそ、3年生の学びを紹介します。(でも予定)


posted by 田中真二朗 at 21:58| 秋田 ☁| Comment(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年09月13日

もしもあなたが画家○○ならりんごをどう描く? 2020ver.

前回のアップが6月とは・・・。あっという間に3ヶ月。
3年生の大会やコンクール、さらに修学旅行がなくなりました。
この悔しさが負のパワーとして表に出てこない3年生が素晴らしいです。本当に。
この悔しさは高校で晴らすしかないな。

さて、前回のアップの続き、「もしもあなたが画家○○ならりんごをどう描く?」についてです。

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多様な見方や考え方、感じ方、表現方法を実感的に理解するには、「リンゴ」という普遍的なモチーフに限定して表現してもらうのが一番分かりやすいのです。
粘土の扱いや色の足し算を学ぶ短時間題材で「りんごの兄弟を創造する」という授業も経験しています。ヨシタケシンスケさんの絵本「りんごかもしれない」を読み聞かせしてから制作する授業です。
リンゴをモチーフに色んな表現に取り組んで、他者との違いを楽しんだり共感したりするのです。

前半は共通事項のア。色や形から受ける印象、感情などについて学び、後半はイ、全体を見たり作風で捉えたりする学び。

題材名「もしもあなたが画家○○ならりんごをどう描く?」時数 2時間扱い
学習指導要領における領域 中学1年生 B鑑賞(1)ア
教師が用意する物 様々な画集、A5サイズの画用紙、描画材料(アクリル絵具、水彩絵具、モデリングペースト、色鉛筆、クレヨン、パステル、墨など)、コメントシート
生徒が用意する物 筆記用具、パレット、筆

 生徒のお気に入りや気になった作品を鑑賞するとともに、その画家になりきって「りんご」を描くとしたらどのように描くのか考え、描く題材です。作家の作風を知るきっかけにもなり、さらに多様な表現方法を知ることにもなります。生徒が選んだ画家の画集をよく観察することで、モチーフの捉え方や画家の見方・感じ方をじっくりと鑑賞することができると同時に、実際に自分で描くことで作者の心情面に迫ることができると考えています。制作後は一人ずつプレゼンし合い、見方や考え方を広げ深めます。1年生の題材ですが、自己選択する場面が多くあり、より主体的に学習に取り組むことができます。

育てたい力
・画家の作風などを知り、見方、感じ方を広げて鑑賞する。
・様々な描画材料を選択し、イメージに合う描き方を試行錯誤する。
・作品に対する自分なりの解釈を発表し合うことで、多様な見方や感じ方を知る。


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何!?この作品!
 図書室や美術室に眠っている多くの画集をすべて広げてみます。その中から自由に作品を鑑賞し、お気に入りの作品、または気になった作品を選びます。選んだ作品を鑑賞し、描かれた作品の未来を想像するという活動をワークシートに沿って行います。(前時の活動1時間)筆遣いやモチーフの特徴など友達と相談したり一人で見たりと、じっくりと1時間かけて鑑賞します。この活動の後に本題へとつなげていきます。

画家になりきる!?
 本題材の導入は、大型テレビにゴッホやダリなどの作品を写し出し、もしこれらの画家がりんごを描いたらどんな作品になるか考えてもらいます。ゴッホならその描き方から想像して線を重ねて描くとか、ダリならグニャグニャに溶けたりんごを描くなど、画家の作風を捉えながら考えていきます。選んだ作品やその前後に描かれた作品をもう一度見返して、どのようなりんごを描くのかじっくりと鑑賞します。

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どのように描いたのだろう?
 それぞれの画家がどのように描いたのか考えながら、描画材料を選択します。盛り上がったような油絵を再現する場合はモデリングペーストを用います。各描画材料の特徴を簡単に説明したら、あとは試行錯誤の始まりです。版画を選んだ生徒は版になるものを探したり、水墨画を選んだ生徒はひたすら墨の探究活動をしたりします。紙の大きさはA5サイズなので失敗を恐れず何度も何度も試していました。

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ムンクになり切ってのこの作品。本当にムンクが描きそうな感じがします。どうでしょう?色の使い方や構図など実によく観察しているのが分かります。

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こんな考え方もあったのか!
 一人ずつ、自分なりの解釈を発表し合います。同じ画家を選んだ生徒でもモチーフの捉え方、形、組み合わせなど様々な視点でりんごを描きます。発表が始まると、多くの気づきが生まれます。年代の近い画家の描き方から光の捉え方が似ていることに気付いたり、同じような描き方をしていることに気付いたりと発見や疑問が生まれていきます。多様な見方・考え方を知ると共に表現方法の多様性を知ることになるのです。

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このりんごさん、ピカソを鑑賞して、ピカソになり切って描きました。最高にいいりんごです!


観賞会をすると、多様な表現でいいんだ・・・という安心感が生まれてきます。
みんなと同じようにしなきゃいけないという中学生独特の気持ちを早いうちに壊してしまわなきゃいけません。
美術で何を学ぶのか。表現するってどういうことか、どんな意味があるのか。

自分の想いを素直に表せる環境をつくっていくことが我々美術教師の最初の仕事だと思います。

こんな方法もいんだね、こんな描き方許されるの?今度はこういう風に描いてみたい!
実にいろんな言葉が聞こえてきます。
1年生が3年生になる頃には、美術室を自由に歩き回って自分の表現を追求する姿が見られます。
次は3年生の授業風景から見られる学びについて紹介したいと思います。


このりんごの実践ですが、こちらで展示しています。
お近くにお越しの際はぜひご覧ください!

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図工・美術の授業展2020
「はみ出す力展 Vol.2」…9月13日(日)〜20日(日)の一週間、「うらわ美術館」で開催されております。
全国の先生方が出品されています。本当は行きたいのだけど・・・・悔しいです。
はみだす力展 vol.2 〜図工・美術の授業展〜

 日本各地の小中学生の他、幼稚園・保育園・特別支援学校の授業、教員養成に関わる大学の授業・活動や作品の展覧会。子どもたちが見せる「はみ出す力」の創造性を、図工・美術はどのように応援してきたのか。これからの時代に必要な力を授業でいかに育てるか。家庭や教育現場を含めた社会全体で考える機会としたい。

■図工・美術の授業展2020
 日 時:2020年9月13日(日)〜20日(日)
 時 間:10時〜17時 *9/14休館 ※入場は閉館30分前まで。
 場 所:うらわ美術館 展示室A(埼玉県さいたま市浦和区仲町2-5-1 浦和センチュリーシティー3階)
 観覧料:無料

■オンライン鑑賞会
 日 程:9月19日(土)※会期最終日の前日にあたります
 時 間:14時開始、16時15分終了予定(約2時間)
 場 所:zoomにて実施
 参加費:無料  予約はコチラから → https://peatix.com/event/1602797/view

 内容
  @3名の先生方にご協力いただき、ギャラリートーク(お一人20分)をliveで実施
  A会場全体の様子や、全ての展示の様子を撮影し、オンライン鑑賞会の中で動画で上映
  B当日のzoom鑑賞者から質問を募り、可能な範囲で質疑応答

 参加方法
peatix(び会の勉強会告知サイトですが、オンライン鑑賞会の参加予約を兼ねています)にて、
「オンライン鑑賞会のみ(無料)」というチケットを予約購入してください。後日、鑑賞会用のzoom URLがメールアドレス宛に送られてきます。当日は、14時の鑑賞会スタートに合わせてzoomにご入室ください。受付等はありません。

備考
◇オンライン鑑賞会は参加無料ですが、必ず事前のチケット購入(予約)をお願いします。
◇事前に展示室で動画撮影を行い、展示室の様子や、出品してくださった先生方のブースについて、動画で紹介をしたいと考えています。その際、児童生徒の個人情報に配慮して撮影を行いますが、この点についてご相談等ありましたら、早めにご連絡を頂ければと思います。また、鑑賞会の時間の関係で、全ての展示について動画で詳細に紹介することはできないため、その点もご了承ください。
◇当日12時半から、オンライン鑑賞会のzoomアドレスと同じアドレスで、び会を実施しております。

■主催
 さいたま市教育研究会図工美術専門部
■共催
 武蔵野線沿線美術教育実践学習会「び会」


posted by 田中真二朗 at 17:54| 秋田 ☔| Comment(0) | 美術の授業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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