
1年生 鑑賞 「もしもあなたが画家○○ならリンゴをどう描く?」
1 はじめに
学校が再開して1ヶ月、気が緩みがちな日々ですが新しい生活様式の授業に少しずつ慣れてきた感じです。
さて、1年生は・・・題材の精選をしながら授業を行なっています。が、この1年生という時期。
私はものすごく大切にしています。
「植物の生命力」の授業でもそうなのですが、生徒一人一人の感じ方の違いや表し方の違いを、まずはしっかりと認識させるということを大切にしています。一人一人が違うからこの世界は楽しいし新たなことが生まれると伝えています。昨今のニュースでも差別のことが取り上げられています。見た目で決める事でなく、まずは一度受け入れてみることが大切です。同じ民族ですら、同じ地域に生まれ育っていても違う見方や考え方感じ方なんですから。
自己表現を恥ずかしがる年頃ではありますが、自分の表したいことを素直に出せる環境があれば誰でも気持ちよく表現できると信じています。
だからこそ、この1年生の最初の時期の授業は端折ることなく、丁寧にやりたいのです。(でも実はそうもいかなくてかなり足早に進めています)
今回の授業は2コマ続きの授業2回分の鑑賞の授業です。合計4時間のものです。
2 前半の鑑賞
前半の鑑賞は、みんなで対話による鑑賞を行います。大型テレビでルソーの「蛇使いの女」の画像を見せ、生徒の手元にはA4サイズのカラーの作品を渡して行いました。(みんなで一ヶ所に集まることもできませんので・・・・)
・「ルソー 蛇使いの女」を鑑賞する
まずはじっくりと作品を鑑賞します。
そして描かれているものを聞きます。いちいち立たなくても、手を挙げて発言します。楽な雰囲気で。
「女がいます」と生徒A。すかさず、「え!?女なの?」と声が上がります。
教師:「女というのはどこからそう思ったの?」と根拠を求めて聞き返します。
生徒A:「黒くて分かりにくいけど、髪も長いし、体系的に女の人っぽいです」
生徒B:「確かに・・・」
生徒C:「胸がもう女!」一同爆笑。ざわつきます。
教師:「他にも描かれているものいっぱいあるんだけんどな〜」
生徒:「熱帯植物がある」「蛇がいる」「しかも3匹」「いや5匹」「いやいや6匹」「月が出てる」「え!?太陽じゃない」「え〜星が出てるから夜明け前」「お〜!!本当だ!」「太陽描くときって模様つけないでしょ?この丸には模様がついているようにみるから、これは月」「川が流れてる」「湖じゃないの?」「だって波が立ってるし」「後ろに島みたいなものも見えるから湖じゃない」「熱帯雨林の地域で川辺だよ、アマゾンとかって川辺によくでかい蛇いるじゃん」「そうかも!」・・・・
などなど、発言の根拠も求めながら描かれていることを挙げさせます。
画面上には黒い女が何やら笛のようなものを吹いています。
教師:「何が起きているんだ。ここで」
生徒:「女が笛を吹いて蛇を呼び出しているんだよ」「他の動物もその音につられて集まってきてるんじゃない?」
色々と話が進んでいくと、「なぜ女は黒いんだ?」という疑問が出てきました。
「蛇と女だけが黒い。他の動植物は鮮やかな色なのに。」「月の光に照らされて鮮やかな色がついてもいいのに、なんで?」
ここからは色んな物語が生まれてきました。
女の目線が非常に鋭く、こちらを睨んでいるように見えるから、外部の人間に対する威嚇だ」とか「もともと蛇に育てられた女」とか、「蛇に操られて女も黒くなってしまった」とか。
色々話が出てきましたが、最後は鑑賞シートに自分の考えを書いて1時間は終わりました。
実はこの絵画作品のレプリカが本校の保健室前に飾ってあります。どこかで見たことのある絵だな〜と思っている生徒もいたり、すぐわかる生徒もいたり。
でも、みんなで1つの絵を見るとかなりいろんなことがわかるという感覚を持ったようです。見方が広がっていったり深まったりしますから。これがこの対話による鑑賞の面白いところです。
小学生時代は一度も鑑賞を経験していない生徒ですので、今回の鑑賞はかなり面白かったようです。
・たくさんの画集からお気に入りの一枚を見つける
本校にはたくさんの画集があります。2校が統合してできた学校ですので、同じ画集が2冊ずつあるのです!しかも、お世話になっている方からたくさんの画集を寄贈してもらったのでさらに増え、一人一冊みることができます。洋画も日本画も様々な画集を見て、その中から「ビビビっ」ときた作品や「気になる作品」「お気に入りの作品」を一枚選んでもらうのです。
第一印象を一言で書き表すことから始まり、徐々に深く鑑賞してもらうような流れの鑑賞シートを作っています。
目撃者鑑賞シート.pdf
ここでは、選んだ作品の「未来」を予想してもらいます。が、その前にその画家の工夫点に着目して鑑賞します。どのように描いているか、何で描いているか、どうしてこれを描こうと思ったのか、などです。
世界にはこんなにもたくさんの表現方法があるのかと驚きます。油絵も見たことないような生徒です。描き方も画家によってバラバラ。「なんなんだ〜!?」とか言いながら興味津々です。
・一枚の作品の「未来」を予想する
さあ、作品の未来を予想するのですが、これまではその画家の描き方を真似して作品を作ってもらっていました。
模写に近い形で描くことになります。トレーシングペーパーで写し取り、未来で変わる部分は自分で描き、そのトレーシングペーパーを5枚ほどコピーして、それに絵の具を乗せて描くというものです。
これはこれでかなり面白かったのですが、中学生1年生という発達段階ではどうしても「ぶっ飛んだ未来」を描きがちなんです。
肖像画の人物の頭が爆発してハゲになる・・・とかww
造形的な視点を使って予想し、描いてもらいたいという教師側のネライははかなくも散ってしまいます。
発問や鑑賞の段階を考えて少しずつ改良を試みましたが、まだまだ全員が狙いを達成できるものにはなりませんでした。
そこに、新学習指導要領の共通事項「作風などを・・・」という文言。
そうです、よく言われる「森を見る視点」。
画家のこれまでの作品を鑑賞し、作風を捉えてみるという「知識・技能」の面を追加させて鑑賞の授業を組み立てました。
それがこの「もしもあなたが画家○○ならリンゴをどう描く?」です。
多様な見方や考え方、感じ方、表現方法を実感的に理解するには、「リンゴ」という普遍的なモチーフに限定して表現してもらうのが
一番分かりやすいのです。
年度の扱いや色の足し算を学ぶ短時間題材で「りんごの兄弟を創造する」という授業も経験しています。
ヨシタケシンスケさんの絵本「りんごかもしれない」を読み聞かせしてから制作する授業です。
リンゴをモチーフに色んな表現に取り組んで、他者との違いを楽しんだり共感したりするのです。
前半は共通事項のア。色や形から受ける印象、感情などについて学び、後半はイ、全体を見たり作風で捉えたりする学び。
この2本だての授業構成です。
次回のアップは、後半戦。「もしもあなたが・・・」の題材を紹介します。

たくさんのドラマが生まれる1年生の授業。
最高に刺激的でクリエイティブな時間です。
では、みなさん、良い週末を。
週末は、中体連の専門委員長なので・・・今回のコロナ対策に応じたルールづくりに励みます。
安心安全な大会運営を目指して、美術教師としてクリエイティビティを発揮しよう。
3年生最後の大会ですが、開催できることに幸せを感じて頑張ります。